「東京に行くことにした」
そう告げられた瞬間、目の前が真っ白になった。
ほんの少し前まで楽しい時間を過ごしていたのに。
家が近所の私達は、物心ついた頃には既に一緒にいて、当然のように中学校まで同じ学校に通っていた。高校では流石に別々の学校に通うのかなぁ。なんて思ってたけど、頭のいい「君」に勉強を叩き込まれて同じ高校に通っている。
あと3ヶ月後には卒業。
君は就職決まったのだろうか?
なかなか進路を教えてくれない君。今日こそは問いただしてやろうと、いつもの校庭に君を呼んだ。
待ち合わせ場所に何故か缶ビールを持って現れた君は、いつもと少し様子が違う。
寒空の下ビールを一口飲んだ私達は
「まずっ」
と顔を見合わせて笑った。
「ねえ、星が綺麗だよ」
見上げるとそこには雲ひとつない空が広がっていた。
大きな星が見えて、ゆっくりと小さな星も見えてくる。
星空を見上げながら、すぐそばにいる君のことばかり考えていた。
私は君のことが好きだ。たぶんずっと前から。
子供の頃から変わらないその笑顔も、負けず嫌いなところも。
でも知らないことが多すぎるんだよ。
大人になるにつれて臆病になっていく私。
あまり多くは語らない君。
好きな人の進路も知らないなんて。
小さいけれど負けずに光っている星たちを見ていると、不思議と勇気が湧いてくる。
「好き」
私の口から溢れ落ちたその言葉はとてもとても小さかった。君に聞こえただろうか。
数秒の間が数時間に感じられた。
君はゆっくり口を開いた。
「東京に行くことにした。だから…ごめん」
君がゆっくりと立ち上がったその時ポツリポツリと雪が降ってきた。
火照った私を冷ますように。
この校庭で語り合った日々を思い出す。君はいつも夢を語り、私はいつも今を語った。君の夢はあくまで夢の話だと思っていたけど、そうじゃなかったんだ。
一緒に育ったのにどうしてこうも変わってしまったんだろう。なんて一瞬思ったけどそんなことはどうでもいい。
夢を語る君は無邪気な子供みたいだった。そんな君を心の底から応援したい。
頑張れ。君なら大丈夫。頑張れ。
心の中でつぶやく。
最後まで素直になれなかった私は
「上手くいかなかったら、帰っておいで」
とだけ告げ、君の後ろ姿を見送った。
「明日また会えるかな」
なんて考えていたいつもの帰り道はそこにはもうなかった。
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